最高裁判所第一小法廷 昭和29年(あ)2409号 判決 1955年3月17日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人梶田秀夫の弁護人鍛冶利一の上告趣意第一点は、原判決をもって憲法三七条二項違反であると主張する。しかし、所論のように被告人に反対尋問の機会を与えないで取り調べた証人の供述を録取した書類を証拠としても憲法三七条二項に違反するものでないことは大法廷判例の示すとおりである(判例集三巻六号七八九頁参照)。のみならず所論供述調書の供述者田村功は公判廷において証人として取調べられ、被告人は同人を審問する機会は与えられているし、刑訴三二一条一項二号の所論特別の情況が存するか否かは、結局事実審裁判所の裁量にまかされているものと解するのが相当である(判例集五巻一二号二三九四頁参照)。その上本件において所論供述調書は、証拠とすることは同意されておるから、同条項の適用もない。それ故原判決には所論の違法はない。同第四点刑法一九七条一項後段にいわゆる「請託を受け」とは、将来一定の職務行為をすることの依頼を受けることを意味するのは所論のとおりである。しかるに、事実審の判示事実も挙示の証拠も請託のあったことを示すものがないから、同条項を適用したことは違法である。しかし、請託をうけて収賄した者に対しては、同条項により刑が加重されるが、本件被告人のように贈賄者の側にある者は、請託関係の故に刑を加重されてはいない(刑一九八条)。従って、前記違法を理由として本件に刑訴四一一条を職権適用すべきものとは認められない。同第二点、三点、五点は、結局事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当らない。
同被告人の弁護人難波貞夫の上告趣意は、違憲をいう点もあるが、その実質は単なる訴訟法違反、事実誤認を主張するものであり、被告人森野武敏の弁護人高谷清一郎の上告趣意は、事実誤認の主張であって、いずれも適法な上告理由に当らない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)